a


home bio dico column column



【コラム】 Vol.1 旅する楽器サズ (2016.9.27更新)

【コラム】 Vol.2 シュトテネーマ あなたはどこに (2016.10.20更新)

【コラム】 Vol.3 清めの泉 シャドルヴァン (2016.11.2更新)

【コラム】 Vol.4 ボブ・ディランとヤドランカ  (2016.12.13更新)

【コラム】 Vol.5 歌い継がれる名曲「一日がもっと長ければ」 (2016.12.21更新)

【コラム】 Vol.6 SVE SMO MOGLI MI スヴェ スモ モグリ ミ制作秘話 (2016.12.27更新)

【コラム】 Vol.7 サラエボ事件の現場 ラティンスキー橋 (2017.3.30更新)

【コラム】 Vol.8 映画「サラエヴォの銃声」 (2017.3.30更新)

【コラム】 Vol.9 松田美緒さんとヤドランカ (2017.4.18更新)

【コラム】 Vol.10 「ANDJOアンジョ」 (2017.5.2更新)

【コラム】 Vol.11 「俳句 HAIKU」 アドリア海で生まれたメロディ(2017.5.17更新)



「Hvalaフヴァーラ」 アルバムこぼれ話 Vol.10
「ANDJOアンジョ」


高校時代に叔父のバンドに加わり、
ドイツなどヨーロッパ各地で演奏活動をしていたヤドランカ。
彼女は学業を再開するため、既に人気者になっていたにもかかわらずバンドを脱退します。
帰国すると、改めて自国の伝統や古いものを見直してみたくなった。
ヤドランカは後にそう語っています。

やがてヤドランカは、民族楽器サズを弾くようになり、旧ユーゴスラビアの伝統的な民謡を
リメイクして演奏するようになりました。
特にマケドニアなど旧ユーゴ南部には、8分の7拍子や8分の9拍子など
珍しいリズムがあり、興味を持った彼女はいくつもの古い歌をリメイクし発表しています。

追悼盤に収録した作品「ANDJOアンジョ」はマケドニア民謡をリメイクしたもので
アルバム「baby universeベイビーユニバース」からの収録です。

  

追悼盤では新たな対訳を
ヤドランカの友人で国際ジャーナリストの千田善さんにお願いしました。

この追悼盤の発売日を「ありがとうヤドランカ展」に間に合わせる為に7月20日に設定。
約三週間あまりの制作期間で、制作に関わる全作業を終わらせることは
無謀だと思われました。でも何としてもやるしかありません。

「ANDJO」の新たな訳を引き受けてくださった千田善さん、
そして後の回でご紹介する「JOVANO JOVANKE」等の訳を担当された中島由美さんは、
「なる早で」できれば「翌日まで...」という通常あり得ない締切に
訳を間に合わせてくださり、こちらがびっくり!本当に感謝しております。

今回、「ANDJO」についてコラムを書くにあたり、
一年前の“怒涛の対訳”を千田さんが再度確認し、ご訂正したい所があるとのことで
ここには直したものを掲載いたします。
また、千田さんには新たに作品の背景なども教えていただきました。

タイトルの「ANDJOアンジョ」とは
アンジャという名前の娘への呼びかけです。
直訳すると「ねぇアンジャよ」
マケドニア語では名前を呼びかける時は語尾が変化するのだそうです。

歌詞に出てくるタンブーラはバルカン半島の国々に伝わる弦楽器。
元々は中央アジアのドンブラという二弦の弦楽器がシルクロードを経て、
ペルシャに形を変え伝わり、バルカン半島にはオスマン帝国時代にもたらされたそう。

マケドニアのタンブーラは複弦(マンドリンのように1音に2弦を張る)で、
2コースにそれぞれ2弦、計4本のスチール弦を張ったものが基本ですが、
4コース8弦のものも使われるとのこと。

  

この作品「ANDJOアンジョ」は、
アルバム「サラエボ・バラード」に収録されている
「KALEŠ BRE ANDJO カレッジ・ブランジョ」(「Š」を正しく発音するとカレシュ・ブレ・アンジョ)を
含む三つのマケドニア民謡を
ヤドランカが組み合わせて一つの作品にしたものです。

「KALEŠ BRE ANDJO 黒い髪のアンジャよ」(A)※1
「DAVAJ ME MILA MAMO 大好きなかあさん、お願い」(B)※2
「DEVOJCE OD MAKEDONCE マケドニアの娘」(C)

これはヤドランカ流のリメイク。
見事な構成です。

  
  

A 「KALEŠ BRE ANDJO 黒い髪のアンジャよ」より引用
B 「Davaj me mila mamo大好きなかあさん、お願い」より引用
C 「Devojce od makedonceマケドニアの娘」より引用

訂正箇所
※1 <旧>怒っているのかい→<新>新黒い髪の
※2 <旧>お母さん、ちょうだい→<新>かあさん、お願い
   注:「お母さん」だと丁寧すぎるので訂正。
   “私をあの人のところへお嫁に出して(あの人に与えて)ほしい”という意味なので
   わかり易く「お願い」に訂正。
※3 <旧>ソファに座りながら→<新>ソファに座って
   注:この部分には「座りながら」と「お座りなさい」と二重の意味がある。
※4 <旧>それはない、かつて生まれた中でマケドニアの娘ほど美しいものはいない
  →<新>マケドニアの娘ほど美しい娘は よそにはいない
   注:「ANDJO」では元歌の「広い世界中に」という歌詞が省かれていて、その部分も含めた
  直訳は「マケドニアの娘ほど美しい女は世界の他の場所では生まれない」となります。
  今回わかり易く直しました。

「ANDJOアンジョ」を構成しているA、B、Cそれぞれの歌詞は脈略がないようで
実はうまく意味が繋がっているように思えます。

Aではタンブーラ弾きの若者が、マケドニア娘アンジャに
「アンジャよ。君はトルコ人と結婚して、ソファに座って金貨を数える暮らしをするのか?」
つまり、キリスト教徒であるマケドニア人の娘がイスラム教に改宗し、
裕福なトルコ人と結婚するのか?と聞いているのです。

ちなみに千田さんによると
元の歌ではこの後、アンジャは
「トルコ語はわからない」というフレーズで嫁入りしたくない気持ちを表します。
これはトルコ人支配に対する事実上のレジスタンスの意味があるそうです。

Bでは、言葉の音としてのおもしろさが活きています。
意味としても「お願い お願い」という歌詞は「私を(誰かに)あげて」つまり
「私を 好きなひとのところへお嫁に行かせて」ということなので、
アンジャの心情と重なります。
ちなみに、元の歌では続きに
「あのジプシー娘を嫁にほしい」「大きな屋敷が欲しい」などという歌詞が続くそうです。
これはどうやら主人公が男性だったり、物欲が歌われていることから、
アンジャの人物像と重ならないので
ヤドランカはこの部分を敢えて省いたのかもしれません。

Cでは民謡「devojce od makedonce マケドニアの娘」から
「マケドニアの娘ほど美しい娘は よそにはいない」という一節が歌われます。
これはマケドニア娘アンジャが美しい娘であることを意味しているのでしょう。

このように歌詞を分析してみましたが
ヤドランカ自身は恐らくあまり考えずに感覚的に三つの歌を繋げたのだと思います。
彼女はそういう言葉のセンスにも優れていました。

別の機会で取り上げる予定ですが
四つの無関係の句を組み合わせた「俳句HAIKU」という作品にも、
彼女のこのセンスが活かされています。

「ANDJOアンジョ」は松田美緒さんの新アルバム「エーラ」にも、
ヤドランカへのオマージュとして「MANAマナ」と共に収録されています。

  
松田美緒「エーラ」
2017.4.19 RELEASE
RPOL-10005
定価¥2,500(+税)
発売 コアポート
MIO MATSUDA official web site

二人は2006年にNHK-BS 「しぶやライブ館シング ・ シング ・ シング」
という番組で共演した際、「ANDJOアンジョ」も一緒に歌っています。

ヤドランカの声がその名の如くアドリア海だとすると(ヤドランカとは“アドリア海の子”という意味)
「エーラ」にたゆとう松田美緒さんの声はまさに地中海。

彼女のヤドランカへの思いが込められた歌を聴いていると
この地球で海はひとつの海として繋がっている…そう感じさせられます。

  
日本コロムビア ご試聴・ご購入サイト


戻る

© 2016 JADRANKA.