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「Hvalaフヴァーラ」 アルバムこぼれ話 Vol.1〜 10
「Hvalaフヴァーラ」 アルバムこぼれ話 Vol.11〜20
「Hvalaフヴァーラ」 アルバムこぼれ話 Vol.21〜24


「Hvalaフヴァーラ」 アルバムこぼれ話 Vol.9
松田美緒さんとヤドランカ


ヤドランカは旧ユーゴを中心に各地に古くから伝わる民謡を再構築した作品や、埋もれた民謡を発掘して歌ってきました。
ヤドランカというアーティストのひとつの特徴です。

今回ご紹介するのは8曲目に収録された「MANAマナ」という作品。
これはアルバム「MOON WILL GUIDE YOU」に収録されていた楽曲です。

このアルバム制作でロサンゼルスに行ったヤドランカは
旧ユーゴ出身の世界的なギタリスト、ミロスラヴ・タディチさんの家で
「MANA」を耳にし、彼とこの曲を録音することに決めました。

  

「MANA」はブラジル北東部に伝わる古い曲で、
ポルトガル語で歌われています。
今回の追悼アルバムに載せた対訳は松田美緒さんによるものです。

松田美緒さんはヤドランカがその才能を認めていた若き友人。
彼女はポルトガル、ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチン、ベネズエラ、ペルー、
カーボヴェルデなどポルトガル語・スペイン語圏の国々で、
現地を代表する数々のミュージシャンと共演、アルバム制作を重ねて来た
まさに現代の吟遊詩人です。

海外だけでなく彼女は日本各地をも旅し、
2014年に発表したCDブック『クレオール・ニッポン うたの記憶を旅する』は高い反響を呼びました。
文藝春秋「日本を代表する女性120人」に選ばれ、
また第2回ヘテロトピア文学賞特別賞を受賞しています。
2016年には日本テレビ系列のドキュメンタリー
『NNNドキュメント'16 ニッポンのうた “歌う旅人”松田美緒とたどる日本の記憶』
が放映され、同作は2017年度・坂田記念ジャーナリズム賞を受賞。

『クレオール・ニッポン うたの記憶を旅する』は、
松田美緒さんが日本各地をフィールドワークして、土地の人に歌い継がれてきた古い歌を集めた作品。
貴重な記録であり、松田美緒さんの声による素晴らしい歌の遺産と言えるでしょう。

  

このCDブックのページをめくりながら松田美緒さんの歌を聴いていると
ヤドランカが忘れ去られようとしている古い民謡をリメイクして
再び歌に命を吹き込んできたことを思い起こさせます。

ヤドランカと松田美緒、本質を見極める二人のアーティストの真摯な歌への思いと、
深い心の繋がりを感じます。

松田さんは学生の頃からヤドランカの作品に影響を受け、
プロになってからはライブで共演もしています。

  

2016年6月初め、松田さんに「MANA」の対訳を依頼した際
彼女は自身のアルバムレコーディングの為、リスボンに滞在中でしたが、
すぐに日本語の訳を送ってくださいました。
ちょうど「MANA」を聴いていたところだったと...
不思議な偶然。


 


マナ、きみの髪は、マナ、
木立のようだよ
その炎に触れてごらん
夜明けがきたら
 

(対訳 松田美緒さん)


松田さんによると、マナはおそらくインディオの女の子。
髪の毛が真っ黒な直毛で、それを木々にたとえて愛しんでいるのがうかがえる。
朝になったら、その髪に太陽の光で炎が宿るように見える。
そういう情景を歌ったものだということです。

歌の背景がわかって、改めて聴いてみると
ヤドランカの慈愛に満ちた声がよりいっそう胸に広がります。
自分が“愛されて育った子ども”なんだと思えるような
そんな気持ちになれる歌。

ところで
今回このコラムを書くにあたり、松田さんに連絡したところ、
追悼盤「Hvalaフヴァーラ」に載せた歌詞のポルトガル表記は
どうやら違っていることが判明。

アルバム「MOON WILL GUIDE YOU」に掲載されていたポル語の原詞を
そのまま追悼盤「Hvalaフヴァーラ」でも採用していましたが、
今回このコラムでは正しいポルトガル語表記で掲載します。

ブックレットに掲載したポルトガル語詞が
中世ポルトガル語の変型であると信じて疑いませんでしたが
松田さんによると、
これはおそらくかつて、誰かが耳でとった言葉の表記ではないかと…。

なるほど…これがポルトガル語が母語ではない人々に、
間違ったまま伝えられてしまったようです。

松田美緒さん曰く
それでも素晴らしいのはヤドランカさんの歌は
誰が聴いてもきれいなポルトガル語に聴こえる。
それはヤドランカさんは耳がいいからと。

ヤドランカは歌詞の文字など関係なく、ポルトガル語の歌を
耳で聴いたまま歌っていたのです。

優れた歌い手は普通のひとより耳がいいと聞いたことがあります。
日本の国民的歌手と言われた美空ひばりさんは、
かつて関わるスタッフ全員が何度聞いても気がつかない音に気づいて、
レコーディングをし直したことがあるのだそうです。
“旧ユーゴの国民的歌手ヤドランカ”
彼女がそう言われてきたことを改めて納得しました。

ところで、松田美緒さんがヤドランカの訃報を知ったのは
ギリシャでのアルバムを録音しているときだったとのこと。

ヤドランカから受けた音楽世界への感謝を形にしたい。
「マナ」と「アンジョ」を新しいCDに入れたい。
世界中の歌と心を深い根源でつないでいたヤドランカへのリスペクトと想いをこめて…。

そのとき、そう言っていた松田美緒さんのアルバム「エーラ」が
いよいよ明日、4月19日発売!

ヤドランカへのオマージュとして
「MANAマナ」と「ANDJOアンジョ」が収録されています。

  
MIO MATSUDA official web site

追悼盤「Hvalaフヴァーラ 〜ありがとう ヤドランカ・ベスト」では
全16曲中、アルバム中盤の7曲目から11曲目まで、
「MANA」とともに各地の民謡のリメイク作品が連続して収録されています。

バルカン半島、ブラジル、日本…その土地、その土地の民謡世界を
ヤドランカと共に旅するように
聴いていただくのも一興でしょう。

  
日本コロムビア ご試聴・ご購入サイト


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